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猫のまなざし -6-

2020年2月16日

2月から5月14日まで長谷観音内の観音ミュージアム(一昨年の秋オープン)で「長谷寺のちょっとむかし展—幕末・明治・大正・昭和—」という展示が開かれています。これはむかしの写真が中心で、他にフィルム映像もあるそうです。

すいません。書いてる本人が見てないといけないんですが、知ったのがつい昨日、長谷の実家に帰ったその帰りのことで、すでに開館時間(4時半まで)は終わり、この原稿の締め切りまでにはどうしても見に行く時間がとれないのでホームページで見られる写真だけでとりあえず思いを馳せています(長谷に思いを馳せるところがミソ)。

私は昔の写真が好きで、写真集を何冊も持っていますが、私にとって鎌倉が写っている写真が特別おもしろいのは言うまでもありません。

「これはどこだろう?」

「あの道が昔はこんなだったんだ!」

「これ、左右が逆に焼かれてるんじゃないか、……」

と私はいちいち感心して長いこと見入っていて、妻にあきれられます。昔の写真をそこそこたくさん見てきた私でも、この展示はホームページ掲載の写真だけでも別格な感じがします。お堂の再建のための大木を運ぶ牛車(!)、それを見守る沿道の人たち。今だったら住民の迷惑とか交通渋滞とかに配慮して、深夜に大型のトラックかトレーラーでススッと運搬してしまうかもしれないけど、この写真には道に白い頭巾らしきものを被った人が並んでいる。

工事の成功を町全体で祈っているようにも見えるし、お堂となる木をひと目見るだけでもご利益があると思って人が集まってきたのかもしれない、などという想像もできる。……とにかく、昔の写真はこちらの想像をいろいろ掻き立ててくれるから楽しい。

ここからは私自身の記憶だけど、長谷観音の入口の交差点が今みたいに広々としたのは東京オリンピックの頃で、それ以前はいちやなぎ米店の斜め前(鎌倉いとこの向かい)には川が流れていた。地図で見ればわかるけれど、この交差点は十字の右上(北東部分)に三角スペースがあり、そこがかつては川でぽっかり空いていた。その川はもちろん消えてなくなったわけでなく、右下の恵比寿屋の脇で顔を出す。40年ちょっと前のゴールデンウィークの真っ最中に、川に蓋していたアスファルトが陥没して大型ダンプカーが尻からずぶずぶ沈んだことがあった。あれはすごかったなあ!

交差点から長谷駅に向かっていって、鎌倉彫の白日堂の細い道をはさんだ隣には横浜銀行の支店があった。サイコロキャラメルわかりますか? あんな感じの小さな洋風の、まるで西部劇から出てきたみたいな、趣きのある建物で、子供の私は母と行くたび、銀行強盗が馬に乗って拳銃持って襲撃してくるのを期待したものだった。……が、襲撃されるより前に撤退してしまった。残念!

 

 

<プロフィール>

保坂和志(ほさかかずし)

小説家。1956年山梨県生まれ。幼少時。鎌倉長谷に転居。

長谷幼稚園。第一小学校。栄光学園中学・高校、早稲田大学卒。

90年「プレーソング」で小説家デビュー。

95年「この人の閾(いき)」で芥川賞、

97年「季節の記憶」で谷崎潤一郎賞・平林たい子文学賞、

2013年「未明の闘争」で野間文芸賞を受賞。猫好きとして知られる。

2018年「こことよそ」で川端康成賞を受賞